本を読んだり、読まなかったり

448 竹内靖浩 『東大入試 至高の国語「第二問」』 朝日新聞出版社

文学専攻の学生にとっては面白い本だった。あとがきで筆者は「高校生だった自分」をイメージしたと書いているように、全体にとても平明な文章で読みやすい。

この本は東大の現代文(という科目があるらしい)の入試問題で出た文章をまるで自分が受験生になったかのように読んで論じるというもので、異なる筆者の文章を通して論じることではひとつのアンソロジー本の分析のようなものだ。ユニークなのは、そのアンソロジーはひとつの大学の入試問題集であり、その選者はだからそのときどきの大学の先生ということだ。複数の匿名の出題者のことを全体でまるで人格があるひとりの個人のように(その人の名前は「トーダイゲンダイブン」というのだ)語っているのが面白い。そしてその選者が心に抱いているアンソロジーのテーマは「死」であるという主張。

自分がいま修論を書いている身なので、この本も文学の論文として読んだ。論文は「しつこく、ねちねちと、いやらしく書け」とはわたしの先生の教え。この本もなかなかしつこくてねちねちしていていやらしい。優秀な論文である。「目の恐怖」の指摘など、面白いと思うポイントもたくさんあった。強いて文句を言うなら、この人はあまり文章が上手い人ではない。そして大体は「ねちねち」しているのだがところどころ乱暴なところがあって、「あれれ」と思う。先生から朱で「?」を入れられそうなところだ。

たとえば冒頭でいきなり「この世で一番難しい問題とは何だろうか」との問題を出すが、すぐに自分であっさり「おそらくそれは「死」であろう」と答えるのだけど、これはすごく無理があると思う。読者が口々に異議を唱えそう。また、幼い頃の百人一首を通じての言葉との出会いを書いた歌人の文章を、わたしは「うんうん。そうだよね」とふつうに共感しながら読んでいたのだが、筆者は開口一番に「これを読んでぽかーんとしてしまうのは、正常な反応かもしれない。それが望まれているのだと思う」と書いてあったのですごく驚いてそれこそしばらくぽかーんとしてしまった。(わたしって正常じゃないの?!)

内容については、最初の金子みすゞの詩の分析が魅力的(といってもわたしは金子みすゞが苦手なのでできるだけ急いで読んだけど)だが、わたしが面白いと思ったのは季節についてのところ。島崎藤村の「樹木の言葉」がよかった。冬を越した年寄りの樹がこれから来る春が怖いと言っている。春の嵐を無事に越えないと花咲けないと不安がっている。ここで年寄りが冬を不安がれば陳腐だが、春を不安がっているところに意味があるのだ。でも筆者はこの問題の少しあとになると、いつのまにか春ではなく冬を越すことについて書いていて、このあたりが焦点がずらされているようで読んでいて不満だった。

それから全体的な勢いが最後まで続いていなくて(これは読者のわたしが疲れただけかもしれないが)終わりに近づくと冒頭の元気がなつかしくなった。長い論文を最初から最後までテンションを落とさずに面白く書くのはとても難しいのだろうと思う。

擬人化したかのような「東大現代文」を何度も繰り返すのはチャーミングだけれど同時に東大受験と無関係な者にとっては少々うるさくもある。この本を一番楽しめるのは筆者に世代が近い東大受験生(特に合格者)なんだろうな。
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by tummycat | 2009-05-28 18:13