本を読んだり、読まなかったり

478 吉田篤彦 『それからはスープのことばかり考えて暮らした』 暮らしの手帖社

とても読みやすく、やさしい小説。暮らしの手帖らしい雰囲気の装丁も楽しくていい感じだ。しかし、どうしてこの頃のこういう淡々系というか「かもめ食堂」系の小説は食べ物を扱うんだろう。暖かく素敵な食べ物を提供する店と、そこに淡々と集う人々。描かれる家族の絆はわりと弱めだったり全くなかったり。登場人物は他の人物との距離を慎重にとっていて、決して相手の領域にずかずか踏み込むことはないのだ。それとエロスが徹底的に排除されていて、主人公が憧れる映画の中の若い女性は、老女となって目の前に現れる。危ないものは入れていない、安全なスープみたいだ。

たとえばこの小説の場合、「名なしのスープ」のレシピが大いに不思議な魅力を持つのだが、おいしい食べ物を作って人に食べさせることにどうしてそんなに意味を持たせたいのだろう。最近、「弁当の日」というものが人気だったりして、手作りの食べ物を他の人たちと同じ場所で共に食べることが注目されているらしい。わたしはへそ曲がりなので、そういうのが人気だと言われると、「食べ物なんて、好きなものをひとりで勝手に食べたい」と言いたくなってしまう。ひとり校庭の隅で買ってきたパンをかじるのも素敵だと思うぞ。
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by tummycat | 2009-10-03 14:51