本を読んだり、読まなかったり

484  島田雅彦 『退廃姉妹』 文春文庫

この小説はだいたいが味気ないほどのドライな書きぶりなのに、ベッドシーン(蒲団シーン?)になると俄然、熱のこもったエロおやじ文体になるのが面白い。その表現はふた昔前の小説の濡れ場そのまんま。昭和の雑誌に連載された風俗小説の描写が復元されたみたい。

もうひとつのサイトに、「あの文体はパロディなのか、それとも島田雅彦は真面目に書いているのか」との疑問を書つけたわけだが、どうもパロディだったみたい。「みたい」というのは、わたしは島田雅彦の小説を読むのはこれが初めてなので。この文庫本の表紙はいかにも昭和の風俗小説の挿絵風のイラストが使われており、これが中身の文体にぴったり。

戦争直後のどさくさを女たちがどう生き抜いたかという話で、似たような実話は日本にたくさんあったらしい。エピローグによると日本が再び独立した翌年の1953年、『日本の貞操』という本がベストセラーになったとか。アメリカ兵に対して日本の女が身体を売るという行為について、「これからはわたしたちがアメリカ兵の心を占領するのだ」と主人公の女性の決意が書かれていてこれはわたしにはピンと来なかったが(心を占領したケースもあっただろうが数は微々たるものだろう)、天皇が各地を巡幸して出会ったアメリカ兵に愛想よく握手したりしているという描写と自分たちの売春を重ねるあたりは面白かった。戦争直後の日本が<身体>で受けてきた出来事にフォーカスした結果があの濡れ場の熱烈な描写になるのだろう。

こういう戦争直後の話を聞くたびに、別世界のエキゾチックさも感じてしまうのだが、その時代は自分が生まれた時代とそれほど大きく離れているわけではないとそのたび思い直す。『日本の貞操』がベストセラーになったわずか3年後にわたしは生まれているのだ。売春をして生きてきた日本と自分はへその緒がつながっているのだと思い直す。
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by tummycat | 2009-10-29 08:37