本を読んだり、読まなかったり

496 保坂和志 『生きる歓び』 新潮社

こういうタイトルって…と首をかしげたけれど、読んでみるととても良かった。道ばたで拾ってしまった弱っている子猫の世話をしながら考えたことをつづったもの。画家の草間彌生のインタビューや、知人の息子が全盲だが天才ピアニストになった話を、子猫の話の途中に並べている(ほんとに、この人は猫と人間を堂々と並べるのだ)。ずうっとひとつのことを考えていく様子をそのまんま書いたような小説だけれど、考えの流れを追って読んでいくのが心地よい。

あとで書いているように、この人はこの頃の小説の出だしは「これから書くぞ」という作家と「これから小説を読むぞ」という読者が予定調和的に合っている様子がイヤなのだそうだが、たしかにそういう小説とは違う始まり方で終り方だ。強引にたとえれば、『カンバセーション・ピース』の日本家屋のよう。部屋と部屋はいちおう区切られてはいるがつながっている、そんな感じ。要は「生きている歓び」というよりも、「生きていることそのことが歓びなのだ」と子猫を見て思ったという話なのだが、それだけの考えが自然に読んでいる自分に流れ込んでくるように感じられて、その感じが気持ちいい。そして最後は全盲の息子の話で終わってしまい、普通なら子猫の花ちゃんのことをもっと書くだろうに、すごく唐突なんだけど、この終わり方もそれからタイトルの付け方もいまどきの小説に対する反抗心(?)なのかなと思った。(でももうちょっと花ちゃんのことを読みたかった…。)表紙の花ちゃんの写真もすごくいい。

もうひとつ「小実昌さんのこと」という中編もあるが、こちらは途中から理屈っぽくなって、いまいち好きじゃなかった。

田中小実昌は小島信夫を「先生」と呼んでいて、住み込んでいたこともあるらしい。途中、著者の知り合いが小島信夫のことを、「小島信夫ってのは、田中小実昌とか後藤明生みたいな、ダラダラ書く作家の総本山みたいな作家だ」と言っていて、へぇそういうつながりなのかと感心した。「ダラダラ書く作家」という流派があるのか。
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by tummycat | 2009-12-25 09:52