本を読んだり、読まなかったり

497 テッサ・モーリス-スズキ 『自由を耐え忍ぶ』 辛島理人訳 岩波書店

ぽかぽかしたクリスマスの一日に読んだ。タイトルから想像したのとは全く違う内容だったけど、とても読みやすく、書き方もフェアで良いと思った。お勧め。共産圏の多くの国が消えて自由主義が勝利したように見えるが、実際の「自由」とはどういうものか、たとえばアメリカが戦争や刑務所運営をアウトソーシングしている現状など具体的な事実をあげて検証する。最後には著者の具体的な提案が述べられる。

印象に残ったことをいくつかメモ。

アメリカなどの国は刑務所の運営や犯罪者の矯正・更生を民間企業に任せている(このアウトソーシングは国民による議論なしで決まった)が、民間に任せているが同時に国も介入する「ワイルドゾーン」となっている。民間企業による刑務所は「風変わりな投資」として最近ではたとえばオーストラリアでも人気になっている。

アメリカは戦争も企業にアウトソーシング。そしてアメリカ軍がたとえある国から撤退しても、戦争を受託した民間企業は残る。これらの会社員の実体は兵士なのだが、もし現地人に殺されると「アメリカの民間人が殺された」と報道される。日本をベースにしているアメリカ潜水艦の乗務員も半分は民間企業の社員という身分になっている。

ベンサムの話。彼の考えたパノプティコンは少数による多数の監視だったが、現代ではそれがシノプティコンになっていて多数が少数を監視している。(例、テレビ番組が大衆に与える影響)

バイオ企業が人間遺伝子にかかわる知的所有権を取ってしまう問題。(ユネスコはそれに対して警告の声明を発表したが、それが同時多発テロが起きた日だったため全く無視されてしまった。)

こういう現状に対する著者の提言は、無力化した各学問領域の研究者が(文化研究や経済学や)が境界を越える努力をすること、どんどん拡大する市場が社会的に深化して生まれる問題に対するルールや制度を決めること、企業の私的所有に抵抗すること、国家に監視されるのでなく国家を監視すること、など。

と、まぁここまでは単に非常に興味深いというだけで読み進んだのだけど、最後の日本向けのあとがきがすごく良くて、ぼろぼろ泣いてしまった。イラク人質バッシング事件について。あのとき多くの日本人が声高に叫んだ「自己責任」の論理とその陰にあった「憎悪」について。
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by tummycat | 2009-12-26 10:17