本を読んだり、読まなかったり

511 フィッツジェラルド 『夜はやさし』 森慎一郎訳、ホーム社

まず読んで印象的だったのが色彩。南仏リビエラの光と、アメリカ人たちの服装の派手で明るい色が目立っている。いろんな色が出るのだが、どれも「ピンク」とか「スカイブルー」とか「ライラック」とか単純な名前で呼ばれる色ばかりで、曖昧で複雑な色がないのはなぜ。そして、それと対照的に描かれているのは白黒の映画の世界だ。フィッツジェラルドの時代、小説が映画化されて作家が儲けるということも始まっていたらしく、彼は映画に惹かれたり反発したりだったらしい。

それと、すごくキス・シーンが多い小説である。しかも作者がかなり力を入れて書き込んでいる。「世界のキス小説ベスト3」に入るんじゃないか。あとのふたつはわからないけど。ただ、登場人物のうちフランス人の男が「アメリカ人の女はキスしたがる。唇から血が出てもキスしたがる」と言っていて、キスがアメリカの未熟さの象徴でもあるみたい。色彩の単純さもそれかもしれない。小説のあちこちでアメリカ人の若さとイギリス人の老成が対比されている。

主人公のディックは男だけれど、小説のあちこちで微妙に女性的になってしまっているところが隠し味的に面白い。それと、エンディングがカッコいいな。ビーチに立つ主人公とそれを上の方から見ている新しいカップル。そして、主人公の消息がだんだん薄れていきながらこちらに伝わってくるところ。いい感じ。
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by tummycat | 2010-02-15 10:20