本を読んだり、読まなかったり

528  斎藤美奈子 『妊娠小説』 ちくま文庫

斎藤さん、がんばりましたねー。力作である。

斎藤さん率いるチームが「妊娠小説」という新しいジャンルを決めて、従来の小説を検討する作業。なかなか刺激的で面白い。前半は歴史的にみた妊娠小説。堕胎・中絶に関する新しい法律ができるとその3年後に妊娠小説がたくさん登場するという法則の発見が面白い。後半は取り組み方がやや<ガチ>になって、ちょっと息苦しいかも。特に体調が悪いときに読むと、血だらけの胎児や陰鬱な産婦人科の描写などが身体にこたえる。

それにしても鴎外の『舞姫』の男の身勝手はすでに有名だけれど、石原慎太郎の『太陽の季節』や三島由紀夫の『美徳のよろめき』なども相当なもののようだ。『太陽の季節』では恋人が妊娠を告げる場面はヨットの上で、告げられた主人公はいきなりウクレレを弾いて歌い出す、ということろは爆笑。まぁ細かいところはこの本を読んでいただければわかるが、男の身勝手さが徹底的に暴かれている。一方で女性作家の妊娠小説もなかなか変なのだが。

最近の小説では女は最初は「生みたい」と口にすることが多いが、それは「生まなくても済む人だけに許された、選べる者の特権、贅沢な発言かもしれない」という指摘があった。昔は妊娠即堕胎薬の入手ということだったようだ。

この本でやり玉にあげられている作家は、古くは島崎藤村とか新しくは渡辺淳一とか、名前を聞いただけで男の身勝手が想像できそうな人が多いけれど、個人的には村上春樹がそういう系列に立派に参加しているというのが興味深い。斎藤さんが扱っている妊娠小説はリアリズム小説だけだが、それ以外のタイプの小説で妊娠が表象するものについて考えても面白いと思う。たとえば『1Q84』とか。

それにしても表紙がいかにも妊娠という感じで唸った。
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by tummycat | 2010-05-09 13:46