本を読んだり、読まなかったり

531  川上弘美 『ゆっくりさよならをとなえる』 新潮社

この人のエッセイはわりと好きだ。この人はたぶんとても真面目なので、書評やエッセイを書くときにすごくちゃんと書こうとしていると思う。特にエンディングがいかにもエンディングだ。そんなにちゃんとしなくていいのにとわたしは思う。

昔ちょっとだけ住んでいた明石の街が好きだとエッセイに書いたら、偶然に明石に行くことになった話。「歩きまわって確かめているうちに、ぽかんとした気分になってきた。自分のいる場所や時代がふたしかになってくる。」という感じ、わかるなぁぁぁ。

それから引用してあるいろんな本からの文章も「わかるなぁ」と思うものが多かった。色川武大が『怪しい来客簿』で、自分のうちに来客がある予定のときに、「怖いというほどではないが、先方が、電車の吊革にぶらさがったり車の中にうずくまったりしながら、一路、私のところをめざしてきている。その姿を思うと、やはり、なんだか怖い」というのがすごくいい。わたしも「怖い」というのではないが、みんな一路めざしてきているんだなぁ、いまこの瞬間に、と思うと妙な感じがいつもする。あと、田辺聖子『私的生活』の「剛がわたしに惚れきっているから、軽蔑してしまう」とかいうところ。川上さんは「恋愛において、『軽くみる』『みくびる』ということは、大事なことなんじゃないかなぁ」というけど、ほんとそうだ。

ところで最後の「ゆっくりさよならをとなえる」では、ある冬の夜に川上さんが爪を切ったり、詩を読んだり、カフェオレをつくったりと、いろんなことをしているその動作を並べて書いているのだが、そのなかに「昔恋人からもらった手紙(とってあるやつ)を読み返す」というのがあって、へぇ、そんなことをするんだ、と妙に感心してしまった。そういうのは普通はあんまり無造作に読み返すことなんかないものと思っていたので。どうなんでしょうか。みなさん。
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by tummycat | 2010-05-20 09:06