本を読んだり、読まなかったり

546 福永武彦 『草の花』 新潮文庫

十年ぐらい前だったか、『廃市』を読んで以来の福永武彦。高校のときは『愛の試み』が気に入っていた。

『草の花』は、冒頭で主人公の青年が死んで、それから彼の手記が始まる。手記の前半は美しい青年への恋、後半はその妹との恋愛で、彼はどちらにもやぶれてしまうのだ。この構成はイブリン・ウォーの『ブライヅヘッド、ふたたび』に似ている。妹がキリスト教と恋人との間で板挟みになるところも。『ブライヅヘッド』でもわたしは前半のセバスチャンとの話があまり好きになれなかったが、こちらでも前半の美しい藤木くんとの恋はあまりに自分を相手に投影しているのが明らかで、それを大まじめで「愛する」と言ってる主人公にアクビが出そうになってしまった。妹との話はもう少しマシになるが、妹に評されるように彼はあくまで自分本位に「夢を見る人」なのだ。

妹との恋愛話では、男と女のあわあわとした気持ちのすれ違いがそこここに描かれて、「ああ、そうなんだよね…」と懐かしく(?)思った。最後に今では結婚して暮らしている妹からの語り手への手紙で、二人がいかに擦れ違っていたかが明かされるのだ。

主人公は繊細で理想家肌の芸術家で、どうしようもなく自我が強い。彼の目に映る世界の中で、彼だけがまともで純粋で正しい。そういう主人公がだんだん憎くなってしまった。おまけに出征と結核という2大悲劇モチーフを出されると、もうこれは真面目になってしまうしかないのだ。その真面目さにきつくしばられているような、息苦しい、不自由な読後感が残った。
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by tummycat | 2010-09-06 07:48