本を読んだり、読まなかったり

567 佐野洋子 『問題があります』 筑摩書房

わたしはなぜだか佐野洋子が離婚を繰り返したのち独身で、子供もいないと思い込んでいた。でもたしかに息子がいたし、本人も「子孫」がいると書いてある。なので、佐野さんはたったひとりで死んだわけではないのだ、と安心した。それにきっと友人も多かっただろう。

この本は2000年以降ぐらいのエッセイを集めたもので、たしかに息子も登場している。しっかりした男のようだ。

印象に残る話がいろいろ。「日本で一番古いキャバレー」に河合隼人と一緒に行った話。ホステスも古いのだそうだ。そういえば河合隼人も一足先に向こうに行ってしまった。それから、山田風太郎の『人間臨終図鑑』をすごく気に入ってお中元にしたこと。有名人がどんな死に方をしたかを書いている本らしい。読んでみようかな。

リルケを若い頃読んで感激したと言いながら、「今読んでも何もわからん」と言い放つ。自分の人生の辻褄合わせなんか全然しないのだ。

内田百間が好きなのはちょっと意外だった。そして佐野さんをすらぎょっとさせる内田百間。彼は宮城道雄に「めくらでも美人はわかりますか」と尋ね、宮城は「わかります」と答えたという。

夫婦についての意見はさすがに鋭い。長年別れずに暮らした夫婦の間にあるのは「愛」ではなく「情」だから、強い。なかなか別れないのだと言う。「夫婦は中からは容易に破れるが、外からつっついて壊そうとしても決して壊れないものである。/妻子持ちの男と不倫をするお姉ちゃん、やめときなさい。骨折り損です。」たしかに…。

年を取り、物を忘れていく辛さが突き刺さるような文章も多い。読んでいて辛い。

「この頃は読んだ本を次の日には忘れていて、タイトルも思い出せない。昔読んだ本も全部忘れている呆け老人になってしまった。読書は無駄だった。そして、読書だけが好きだった私の人生も無駄だった気がするのだ。」(これは2007年)

あとがきは2009年のものだ。物忘れがどんどんひどくなってしまったと書いたあと、「そして、強く思った。まるで生きていてもいなくても同じ一生だった」と言う。こういうもの読むのはたいへん辛い。辛いけれど、自分の人生の意義をでっちあげようともしない強さに感動もする。彼女は強い強い縄文人だったと思う。
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by tummycat | 2010-11-26 14:29