本を読んだり、読まなかったり

095 「日和下駄」 永井荷風著 (講談社文芸文庫)

大正4年頃の東京の街って、こんな感じだったのだ。タイム・トリップして荷風さんと一緒に散歩を楽しむ。物売りの声、川の水の匂い、路地から聞こえる三味線の音。荷風さんはアメリカ・ヨーロッパ遊学から帰国したばかりで、どんどん美しさを失っていく東京の街を嘆いている。ヨーロッパから帰って、「日本のこんなところがよくない、醜い」とつい口に出してしまうところ、よく分かるなぁ。(でもこういうの、他の日本人には嫌われるんだ...。)

だけど、それでも日本独特の味わいはまだまだ残っている。掘割の岸に物揚場がある。荷車の馬が身体を休め、馬方と一緒に柳の木の下で居眠りしている。物陰に牛飯やすいとんの露店が出ている。赤ちゃんを地面の上に捨てたようにして夫を助けて働く女房。痩せた鶏が餌を求めてちょこちょこ歩く。そういう場面を見て永井さんは「自分に画才があったらミレエのような絵を描くのに」と嘆くのだけれど、いえいえ、荷風さんの文章はミレエにも負けない魅力ある絵なのです。

ところでこの頃の東京の建物で今でも残っていたらきっとクラシックな建物として珍重されているだろうけれど、荷風さんは悪趣味な建物が増えていると嘆いている。ということは、今の東京に建てられているたくさんのつまらないビルも、あと100年もたてば昔の香を残す素敵な建物として観光名所になったりするんだろうなぁ。
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by tummycat | 2004-03-20 00:00 | な行