本を読んだり、読まなかったり

109 「ロマネ・コンティ 一九三五年」 開高健著 (新潮文庫)

開高健という人が、非凡な文章力を持つ作家であるのは間違いないけれど、それだけでなく、内面の苦しさを抱えて生きた人だということを痛感する短編集。「輝ける闇」と「夏の闇」を読んだら、この本もぜひ読んでほしい。

 人にはその人だけの事情がある。同じ人間などいない。他人が自分とは違う外的、内的な事情を抱えて生きているということを忘れてはいけないとあらためて思う。

 ところで、表題作はワインの味わいをある女性の記憶にからめて作家として満身の力を込めて言葉で描写したものなのだが、これを読んで素朴な疑問がわいた。開高健は鋭い味覚の持ち主で、自分が感じた味をどう言葉で表現できるかに挑戦した人だと思う。でも、彼が表現したものを読む方としては、たとえばワインを飲んだこともない人ならちっとも感動できないはずだ。それを考えると、このワインの描写を彼が希望するように鑑賞できるのは、相当な味覚と経験の持ち主ということになる。読む相手を選ぶ小説ということになるのではないか。

 いや。そう考えると味覚だけじゃない。小説というものはどんな内容のものでも、相手を選ぶものなのかもしれない。読む側の経験、感性、想像力が足りなければ、いい小説もその価値は現れない。
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by tummycat | 2004-04-29 00:00 | か行