本を読んだり、読まなかったり

149 「神谷美恵子の世界」 みすず書房編 (みすず書房)

(まずはアマゾンのブックレビュー用に書いた文章)

 神谷美恵子という、凡人の目から見ればスーパーウーマン的な女性を多くの面から光をあてて描き出した貴重な本。生前の自筆のノートや家族とのスナップショット、自作の詩、講演記録などと共に、精神医学、看護学、英文学などの分野の知人たちや、身近に接した人たちが心をこめて書いた文章が集められて、手作りの暖かさが感じられる本になっている。

 彼女はひとりの人間が持つにはあまりに多くの才能を持っていた。充実した幸せな生活のなかでも、人のために働きたいという気持ちと創作活動をしたいという気持ちの葛藤によって苦しんでいたことが分かる。

 65歳で亡くなった人のことを「夭折した」とは言えないけれど、どうしても早すぎた死という印象を持ってしまうと何人かがこの本で語っている。特にバージニア・ウルフの研究がイギリス側の遅れのために未完となったことは本人にとって、どれだけ悔しいことだったろうと察せられる。

 人が生きることの意味について考えたい人ならば、女性だけでなく男性も感銘を受けるだろう。存命中も多くの人から求められ感謝された人だが、亡くなった後も著書を通じて彼女から勇気をもらう読者は多いに違いない。


(そして以下は超個人的な感想)

 わたしはときどきものごとを必要以上に感傷的に受け止める癖があるので、注意しなければならないと思っている。神谷美恵子という名を初めて知ったのはかなり昔のことで、わたしにとっては老後の楽しみとして取っておくべき人だった。けれど3年ぐらい前に不思議な出来事があって、まず文庫本になった「神谷美恵子の日記」を読んだ。それ以来、どうもなんだかわからない縁のようなものを感じている。これは自分のバカな思い込みに過ぎないのかもしれないのだけれど。

 最初の頃は、神谷美恵子という人はあまりに、あまりに、偉い人なので、自分の身に引きつけて考えることに抵抗があった。読んでいますとか好きですとさえ、恥ずかしくて言えないと思っていた。でもこの「神谷美恵子の世界」を読んで、やっと「相手が立派すぎるということを気にすることはない」と思えるようになった。どんなつまらない人(たとえばわたしみたいな)も、小さな器なのだし、そこに流れ落ちてくるものを受け止めることができるはずなのだ。小さい器は少量しか受けられないけれど、でも受けたいのだから受ければいい。

 ということで、これからは老後の楽しみなどと悠長なことを言わず、今の自分が受け取る水として読んでいこうと思う。
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by tummycat | 2004-11-25 00:00 | か行