本を読んだり、読まなかったり

159 「英語と英国と英国人」 吉田健一著 (講談社文芸文庫)

去年から引きつづき吉田健一はわたしのアイドル。この人の英語力は尋常じゃない。

わたしはある国の文学を外国人が研究するということについて(たとえば日本人が英文学を研究する)、その国の人ほどには理解できない壁があるのではないかとずっと思ってきたけれど、吉田健一はこう言っている。

こういう問題に措いてはいつも、英国人と同じ程度に英文学を理解することは我々には出来ないということが言われる。愚劣極まる話であって、それならば古代のギリシヤ人もロオマ人も、一人も残っていない今日、ギリシヤ、ロオマの古典文学は地上から姿を消したことになる。その程度の知性と想像力しかないならば、ギリシヤ、ロオマは勿論、英国の文学もやらない方がいいのである。(p.53)

なるほど。ギリシア文学を出してくるのは説得力がある。

目からウロコだったのは、日本語に対する、英語とフランス語の比較の話。彼が言うには、フランス語の文章をそのまま日本語にしても意味が通じる。その理由のひとつは日本の近代文学に対するフランス文学の影響が非常なもので、我々が作品を書く時の日本語が多分にフランス風の言い回しやフランス語の語脈を伝えているからだ(p.71)とのこと。それに対して英語は日本語と凡そ似ても似つかな言語であるという困難があり、そしてその上に、英語はヨオロッパの言語の中でも詩を書くのに適していて(p.72)、そのために下手に日本語に翻訳するとよさが失われるとのこと。わたしはフランス語も英語も似たようなものだと思っていたので驚いた。

特にここで引用されている「失われた時」という言葉のフランス語訳と英語訳の話、(「星の王子さま」でもその言葉が出る個所があり、その英訳について以前考えたことがあるので)興味深かった。

Ce poeme contient le temps que Proust a perdu. というフランス語をそのまま英語に直訳すると、 This poem contains the time that Proust lost. だがこれは英語としておかしいから、We find in this poem the time that Proust looked for.とでもすべきだという。どうして? Lose timeがおかしいのは分かるとしても、どうしてlook for timeにすべきなのか。というより、元々のフランス語の「時間を失う」というのはどういう意味なのか。わからない。(どなたかおわかりの方がいらっしゃったらぜひおしえてください。)

ちなみに「星の王子さま」ではフランス語は時間を失う( perdre temps)となっていて、その英訳は時間を浪費する(waste time)となっている。
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by tummycat | 2005-01-05 00:00 | やらわ行