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本を読んだり、読まなかったり

166 「82歳の日記」 メイ・サートン著 (みすず書房)

この人の著作の訳者は武田尚子と中村輝子がおり、これは中村の訳。わたしはあまり好きでない。言葉遣いが若い女性のようで少々幼稚に感じられて、特に読み始めは違和感があった。

 これは著者が亡くなる前年の日記。身体の調子が悪く、ひとりでできることが少なくなりつつある状態だった。最後までいい詩を書こうと努力し、ボスニアの情勢に心を痛め、花や鳥に心を慰められる。とくに猫の存在の大きいこと! わたしも死ぬ直前まで猫を飼っていたいと思った。同時にこんなに歳を取っても、書評がかんばしくないことに気を病んだり、文壇で認められていない原因を考えたりするものなのかと驚いた。全国の読者からたくさんのファンレターを受け取っているのに。作家とはこういうものなのか。

 日記とはいえ文学である。この日記の文学としての質はさすがにそれほど高くはないと思う。それでも、この人独特の誇りを持った老いの迎え方には感銘を受ける。わたしにとって、老いはもう抽象的な概念ではなく具体的な問題と思えるので、どうしてもそういう読み方をしてしまう。漫然と歳を取るのではなく、どういう老いを過ごしたいかとイメージして具体的に準備をしていた方がよさそうだと思った。
 
by tummycat | 2005-02-17 00:00 | さ行