本を読んだり、読まなかったり

292 ミュリエル・スパーク 「The Driver's Seat(運転席)」 Penguin Books

2冊めのスパーク。うーん、唸りました。最初に読んだ『Memento Mori』は気妙な小説ながらまだ普通の小説の範疇に入れられるけれど、こちらは明らかに「すごくヘン」だ。リアリズム小説として読んだら、主人公の女性Liseは完全に狂っている。だいたい、冒頭に休暇に旅行に出るということで新しい服を買うのだが、このチョイスがすごい。「汚れがつかない新素材」を店員から勧められて激怒し、選んだのは黄色やオレンジやブルーの派手な服。おまけにその上からはおるコートは赤と白のストライプという強烈なもの。そしてその服を着て、空港へ行き、飛行機に乗り、ナポリ近く(?)の街に着き、偶然知り合った老女とぶらぶら買い物をし・・・。そんな平凡な行動のすみからすみまで普通じゃない。

そして途中からだんだん小説の異常さが前面にはっきり出てきて、鈍感な読者もこりゃあ、ただならぬ小説だなと悟る。最後は恐いほどの強さで打たれるピリオド。

恐くて不気味。でも面白い。ありえないほど強烈な彼女のいでたち。あれはこの旅のために選んだ彼女の衣装なのだけれど、あれを着ることで彼女は完全に異界の人になっている。夜更けのカフェで最後の客が帰ったあと、積み重ねられる椅子を見て寂しいというセリフだけ共感できて、あとはまるで理解できなくて、たとえば彼女は人間じゃなくてすでに一種の「鬼」になっているようにも思える。独特の衣装を身にまとう鬼。

『Memento Mori』のときもそうだったけど、読み終わると「神」について考えてしまう。自分のものではないクルマのハンドルを握る彼女と神の関係を。

(日本語訳もありますが残念ながら絶版中。図書館で読みましょう。)
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by tummycat | 2007-02-02 10:59 | さ行