本を読んだり、読まなかったり

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688  赤木明登 赤木智子  『うちの食器棚』  新潮社

著者たちご夫婦が自宅で使っている食器をごっそり紹介するという、ちょっと変わった本。といっても、赤木明登さんは能登で漆の塗師をしている人だし、食器に関しては素人ではないのだ。ご夫婦が出会った1984年から2013年まで30年間に買い集め使ってきた食器の紹介である。

わたしは最近80年代に興味がある。この頃にいろんな社会変化が起きているからだ。80年代に起きた変化のコレクターになろうとしている。前回の『心理学化する社会』では、80年代には構内暴力がはびこり、また「自己臭」の悩みが増えたとのことだった。で、この本によると、80年代になって個人作家で生活食器を作る人があらわれはじめたのだそうだ。それ以前はオブジェ的なものだった。以来、ずっと現在まで多くの個人作家がふつうの食卓で使える普通の器を作りつづけている。流行ももちろんあって、たとえば2000年頃からは白い食器が風靡していく。これは今でもまだ続いているけれど。

というわけで、最近わたしも個人作家の器を買って使うようになっているので、興味深い情報がいろいろある本だったのだ。


(こちらのコーナー、学期中はなかなか更新できないなぁ。例年のことだけど。)
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by tummycat | 2013-05-28 20:15

687  斎藤環  『心理学化する社会』  PHP研究所

2003年の出版なので具体的な事例が少々古いけれど、言わんとしている事態は今も変わっていない。社会全体がやたらと心理学の事象に関心を持ち、専門用語を気軽に使うようになっているという話だ。おそらく同じ事情から「心理学化する英文科」と言いたいぐらいに現在では文学の論文に精神分析用語が頻出している。文学批評のアプローチとして精神分析方面からのアプローチはだいぶ前から普通のことになっている。フロイトの「不気味なもの」は人気第一位か。ところでどんな理論もそうだろうけど、精神分析理論を使った解釈もやたらとすっきりしており、そして面白い話になっているのが却って胡散臭いとわたしは思う。フロイトにしても、話としてはすごく面白いんだけど、個人的にはちっとも納得していない。心当たりが全くない。それはともかく、以下はこの本を読んで印象に残った箇所。


*「障害」や「壮絶な人生」ばかりが注目される。「ふつう」であることはいまや「物語の空白地帯」。

*80年代は校内暴力がさかんで、これはカウンセリングにあまりなじまなかった。90年代後半になると問題は内向していじめや登校拒否になったのでスクールカウンセリングが導入された。

*事件が起きると心理学者がコメントするようになったのは宮崎勤事件から。それまでは「事件」「事実」にコメントしていたのに、犯罪者の心理が解釈され物語化されるようになった。

*レイモンド・ウィリアムズは社会の心理学化の傾向を「近代のイデオロギー」と呼んだ。

*原作をアニメ化するときの喜び。ある対象が複数の異なった媒体で表現されることはそれだけで快い。アニメが原作をトレースする喜び。媒介への欲望。ある対象を別の文脈に置き直したい。心理学はそういう文脈を与えてくれる。

*むかしは「赤面恐怖症」だったがその次は70年から80年代にかけて「自己臭症」になり、それも今は少なくなった。

*デーゲンはフロイトを「心理学の嘘」の家元とみなしている。

*家族からの虐待問題。訴訟までいかなくても親が糾弾され、家族関係に亀裂が走る例が数え切れないほど出て来た。糾弾運動の旗振り役になったのがセラピストたち。

*よく言われる「虐待の連鎖」は根拠がない。

*人々が求めているのは魅力的な「物語」である。「物語」を作らせたら精神分析はいまのところ最右翼。
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by tummycat | 2013-05-20 07:22

686  ガルシア=マルケス  『族長の秋』  集英社文庫

やっとこちらのコーナーを更新できる~!とにかく、最近は勉強ばっかりで、ゆったりと読書を楽しむ時間がなかなか取れません。小説を読むのは眠りに落ちる前の数分間。(寝付きが良すぎる!)

それでも気分転換のためにちょっとずつでもいいから小説を読もうという気になった。わたしはマルケスとボルヘスをよく混同するので、その問題解決のためにマルケスとボルヘスをつづけて1冊ずつ読もうというわけ。まずはマルケス。始めはひどく読みにくくて、途中でやめるとどこまで読んでいたかが分からなくなり、適当にまた読み続けるのだが、結局どこで切ってもどこからつづけてもいいような、ぐるぐるととぐろを巻いているような物語だ。冒頭で大統領府の様子が描かれるが、建物の中がめちゃくちゃで牛が勝手にうろついている、というのが気に入った。(集英社文庫の表紙は牛。)

マルケスはコロンビアの作家だが、こういう「独裁者小説」を書くのはやっぱりラテンアメリカの作家だからなんだろう。そして独裁者というものはたいていうんざりするほど長く権力の座に居座るから、こういう長い長い物語になってしまう。主人公の大統領は誰も本当の年齢がわからない、超長寿じいさんなのである。それにしてもマザコンで子供っぽいじいさんの様子が妙にリアリティがある。彼の妻が最初は善良であったのに、どんどん傲慢になっていくところなども。最後の方で民間人でダンディな男が残虐の限りを尽くして人を殺していく、そのあたりも迫力だ。そういうもんなのかもねーと思わせる。どれもこれも、とんでもなくあり得ない話なのだが、同時に非常にリアリティがあるのだ。面白かった。次はボルヘス。
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by tummycat | 2013-05-03 06:44