本を読んだり、読まなかったり

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693  山田ズーニー  『あなたの話はなぜ「通じない」のか』  筑摩書房

山崎ナオコーラという作家がいるけれど、わたしはどうも手に取る気がしないのはやっぱり名前のせい。ナオコーラなんて名前の人間がまともな本を書くだろうか…??? そして最近ある方からこの山田ズーニーという人の本がいいと聞いたときも、ズーニー、何それ、と思ったのだ。しかし読んでみたらけっこう面白い。典型的なハウツーなんだけど、よく効くハウツーだった。ズーニーさんはベネッセで小論文を担当した人らしい。

特に論文の執筆によく効きそうだ。論文を書いていると自分の眼、自分の考えにどうしても凝り固まってしまうから、それをできるだけ解きほぐして改良する必要があるのだが、案外むずかしい。この人が言うように、ある一つの対象についてたくさんの疑問文を並べてみるというのはいい方法だ。別の視点があることが分かってくるからだ。それと、当たり前のことだけれど、相手の立場を想像しながら書くということが大事。自分の論文を読まされる人(査読者とか!)の気持ちになって、その人が今まさに読んでいると想像しながら書くことが必要だ。それに気がつかされただけでわたしにとっては価値ある本だった。

論文の他にも、普通の会話にも役立つだろう。特に、「正論を言うと必ず相手は傷つく」ということなど目からウロコでした。正論とは危ないものなのだ。できれば懐にしまって出さない方がいい。

ところでなんで山田さんが「ズーニー」と名乗っているのかはこの本には書いてなかったけど、なんでだろう。ふざけた名前は、この人の言う「メディア力」(自分の発言を他人から肯定的に評価してもらう力)にとっては不利だと思うのだが。

それで山崎ナオコーラの小説も読んでみるかな。どうしようかな。
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by tummycat | 2013-07-19 14:05

692  ジョージ・ソーンダーズ  『短くて恐ろしいフィルの時代』  岸本佐知子訳 角川書店

短くて面白い小説だった。出だしが秀逸。これでは読まないでいられない。

「国が小さい、というのはよくある話だが、<内ホーナー国>の小ささときたら、国民が一度に一人しか入れなくて、残りの六人は<内ホーナー国>を取り囲んでいる<外ホーナー国>の領土内に小さくなって立ち、自分の国に住む順番を待っていなければならないほどだった。」

と設定は寓話的なのだが、内容はどんどん政治的になっていく。オーウェルの『動物農場』を思い出す。<内ホーナー国>はユダヤ、<外ホーナー国>はドイツ、<大ケラー国>がアメリカというように(わたしには)思える。<大ケラー国>のコーヒーやクッキーが大好きで、毎日を楽しく暮らすのが好きというのが笑える。だから他所の国で問題が起きていると、彼ら自身が楽しくなくなるので出兵して解決しようとするのだ。最後は機械仕掛けの神が出るけれど、それで問題が解決するわけではないという暗示で終わる。

翻訳がリズミカルで面白くて最高。
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by tummycat | 2013-07-16 10:06

691  中野京子  『怖い絵』  朝日出版社

授業で話が出たので読んでみた。有名な絵を取り上げて、「実はこの裏にはこんな怖い話がある…」「実はこういう風に見るとけっこう怖い…」という解釈をしたもの。文化史的なお話が多い。取り上げるのはドガの「踊り子」、ムンクの「思春期」、ラ・トゥール「いかさま師」などたくさん。いかにも怖いゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」がある一方、一見怖くないホガース「グラハム家の子供たち」などもある。どこかで連載したものかなと思うぐらいどの章も短めで一話完結。調子良く読める。どれも面白かったがじっくりと考えさせるには短すぎだ。先行研究の紹介はども含めてもっと詳しく書いてほしかった。文献リストが少なすぎる。

ところで授業で取り上げられたのはジョルジョーネの『老婆の肖像』で、なぜ古今東西の男は若い女を讃える一方で老いた女を理不尽にさげすみ憎むのかという話である。

要するに老婆はおぞましく、そのおぞましい老婆が着飾るのは滑稽であり、見る者の優越感を煽った。声高に美を讃える時代だからこそ、醜かったり、老いたり、神体が不自由だったりする者を平気で笑えたのだろう。

……彼ら(男性)は老いへの恐怖を映し出す鏡として、嫌悪を込めて老婆を見る。つまり、「醜い老婆」とは、男性が自らの見に怒る老いを拒絶するための、まさにスケープゴート、生け贄の子羊なのだ。そして自分だけは決して老いないと信じる若い女性たちが、天につばすることと気づかず、それに追随した。


わたしもつねづねなぜ中年の男性が自分と同じ年代の女性を「オバハン」「ババア」と蔑むのか、不思議に思っていた。若い男性は中年女性をそんなに蔑まないのに(視野に入ってないんだろうけど)。著者のこの説には自然に納得できたのだった。

この本は第2弾、3弾があるようなので続けて読みたい。
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by tummycat | 2013-07-12 18:37

690  G. K. チェスタトン  『ブラウン神父の無心』  南條竹則、坂本あおい訳 ちくま文庫

読み終わってだいぶ時間がたってしまった。なんか、この頃ほんとうに読書する時間がない。文学専攻なのになんでこんなに本が読めないのだろう。おかしな話である。

さて、チェスタトンは『木曜日だった男』が非常に好みだったので、これも楽しみにしていたが、期待どおりの変な推理小説だった。身体が非常に大きく、かつ身軽な男が出る『木曜日だった男』とは対照的に、今度は貧相で小柄な男が主人公で、これがブラウン神父である。ポワロよりも一段と冴えない男なのだ。

推理小説と探偵の関係って、考えてみれば面白いものだ。たとえばホームズの場合、彼が遭遇する犯罪はひょっとしたらホームズ自身の願望が作り出したものなのではという気がするのだが、ポワロだとポワロの願望ではないが、やはりポワロ自身と犯罪には何か関係があるのではないか。ブラウン神父もそうなのだ。探偵と犯罪の関係について誰か論じた人はいないかしらん。

とにかくブラウン神父の話はどれも面白かった。特に「青い十字架」と「秘密の庭」が好きだった。

「秘密の庭」では、ある私邸の庭に唐突に死体が見つかるのだが、その夜招待されていたブラウン神父と医者の二人が庭の死体のところに駆けつける。この場面が、フィリップ・ラーキンの "Days" という(意味がよくわからない、不思議な)詩を思い出させるものだった。ラーキンはブラウン神父を読んでいたのではと思うぐらい。


Days

What are days for?
Days are where we live.
They come, they wake us
Time and time over.
They are to be happy in:
Where can we live but days?


Ah, solving that question
Brings the priest and the doctor
In their long coats
Running over the fields.
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by tummycat | 2013-07-03 08:48